子どもの声

子どもからのメッセージ [事故の教訓]笑顔は人のためにある

子どもたちが、お父さんお母さんの似顔絵を描くと、たいていは笑顔の絵になります。
中には、笑顔でかわいくウインクをしているお母さんもいます。

それを見て「いつもよく怒るのにこんなにかわいく描いてくれて……」と、恥ずかしがるお母さんもいます。
でも、子どもは理想を絵に描きません。
感じたままを描きます。
そう、子どもがお母さんお父さんの顔と言って真っ先に思いつくのは笑顔なのです。

いつもよく怒っているお母さんでも、笑顔のときもあります。
むしろ笑顔の方が多いお母さんもいます。

子どもは、それをちゃんと見ています。
そして、やさしい笑顔こそが自分の大好きなお母さんやお父さんにピッタリな顔だと思っているのです。
だから笑顔を描くのです。

3年前、私は交通事故に遭い、口の中、外、合わせて結局100針も縫う大けがをしました。
しばらくは口が思うように開かず、食事も普通に食べられない状態でした。
口が大きく開かないのでうまくしゃべれません。
何より困ったのは、笑えないことでした。
笑うと口が裂けるほど痛くなるのです。

[事故の教訓]笑顔は人のためにある仕事に復帰した初日、子どもたちは私の様子を見て、何かへンだと感づいたようです。
それもそうです。
まるで人が変わったように無口になった上、まったく笑わない先生になったのですから。

ついに、ある子どもが言いました。
「先生、怒ってるん?」。
どうやら子どもは、私が怒っているように見えたようです。
子どもは笑顔のない大人には緊張感を抱きます。

それを聞いて、「これは大変」と思った私は、子どもたちを集め、交通事故に遭ってしまったこと、口が開かないだけで、決して怒っているのではなく、心は笑っていることを説明しました。

それを聞いて子どもたちも安心したのか、そのあとはいつも通り話しかけてきてくれました。
でも、ときどき不安になるのか、「先生、怒ってるのと違うねんなあ」と、いちいち確認されたりもしました。

そのとき初めてわかりました。
笑顔は自分のためではなく、相手のためにあるということを。
笑うと、みんないい顔になるのに自分では見えません。

でも、それでいいのです。
笑顔は人のためにあるのですから。

笑顔になるとうれしくなるのは相手です。
笑顔は人を喜ばせるためにあるのです。
特に、大人の笑顔は子どもに大きな安心感を与えます。
それで子どもは、ますます親を先生を好きになっていくのです。

事故で歯は10本失いましたが、それにも勝る大きな気付きを、あの事故は私に与えてくれたと、今でも思っています。



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